今年も夏のプール遊びが予定されている。
行事カレンダーをぼんやりと眺めながら、私はとんでもない悪事を考えついてしまった。まずは仲間に誘いをかけてみよう。
「剛くん、ちょっといい?」
みんなが帰り出した頃を見て、いつも帰りが遅くなる3年生の剛くんを部屋の隅に呼んだ。興味を示してくっついてくるタイプの児童はもう居ない。
「あのさ、今度のプール遊びに熊田さんをお招きしようと思うんだけど、すっごいこと考えついちゃった。」
「内緒のいたずら?」
私はこくりとうなずいた。
「剛くんにも手伝ってほしいんだ。ドラグール専用の水着を一式作るんだ。」
「仕掛けもするんでしょ?」
さすがは剛くん。私は再びうなずいた。そして、小さな耳元にその“仕掛け”の内容を吹き込む。
剛くんの目がぎらぎらと性欲に燃え出した。
「マジ?それ、うまくいったらプールがすごいことになるよ。」
「だろ?最後はこの前みたいに二人で山分けしようよ。熊田さんが来てくれそうか聞いてみるね。来るって言ったら、早速ドラグールの水着を作ろうよ。」
「もち。来るって言ってくれるといいなあ…。」
「もちろん行きますよ!またドラグールをやらせてもらえるんですね。うれしいなあ。格好はどうしましょうか。私が水着で入ったらただの親父になっちゃいますよね、ははは。」
市役所の机でどっかりと座り、腹回りのスーツが熊のようにどんと膨らんでいる熊田さんは、見るからにただのデブ親父だった。
「実はドラグール大王の水着を手に入れられそうなんです。キャラクターショップで売ってるみたいで。当日はそれを身に着けてプールに入ってほしいんです。絶対子どもたちびっくりしますよ。」
熊田さんもにんまり。
「私パンツがLLサイズなんですけど大丈夫ですかね?」
「心配要りません。ドラグール大王は体の大きな人が務めることが多いみたいで、サイズも大きく作ってあるみたいです。熊田さんにはちょうどいいんじゃないかな。」
「下に水着とかサポーターは着けてったほうがいいですよね?」
「いや、かえって動いたり泳ぎにくくなりますから、ドラグールの水着をそのまま身に着けてください。」
「分かりました。私は裸一貫で行けばいいんですね。すごく楽しみです。剛くんも来るんでしょ?」
私はにやりとした。抑えられなかった笑みだった。
「はい。今回はサプライズじゃなくて、予め児童に伝えておくつもりです。ドラグール大王がプールに来ると知ったら、休む子どもは居ないでしょう。」
プール遊びは例年どおり学童クラブの全員が一緒に参加する。女児も女性スタッフもだ。
私はあえてそのことを熊田さんに伏せたのだった。それがこの“水の行事”を狂乱の渦に巻き込む重要な要素だからだ。
とにかく、熊田さんは快く引き受けてくれた。ついでにと、プール前の昼食会にも駄目元で誘ってみたらその場でOKがもらえた。よほど子どもたちとの交流を楽しみにしているのだ。
「剛くん、熊田さん来るって。昼も一緒に食べてくれるそうだよ。」
剛くんは珍しく「やったぜ!」と声を上げて喜び、覚えたてのリフティングをぽんぽんと決めた。
「水着作りは先生の家でやろう。材料をそろえておくから、来週の日曜日に来てくれるかな?」
「合点承知い!」
剛くんはテレビアニメの台詞のようなものを口にしながらリフティングを続けた。ほんとうにうれしそうな、それでいてほんとうに悪い笑みを浮かべていた。
しかし、ほんとうの邪悪な笑みを心に浮かべていたのは私だろう。仲間の少年もそれを見抜いているようだった。
「柏木先生、本気だね。」
私は悪巧みのにじみ出た顔で剛くんに笑い返した。
ともかく、材料をそろえねば。一日で完成させるためには、今から型紙を作る必要があるな。私は熊田さんから聞き出したおおよその体の寸法を思い出していた。