ぐぶぶぶふうぅぅっふわあぁぁぁぁっ!!
「ふごああくせえぇぇぇっ!ごっ!」
真下の奈落から突如吹き上がった熱い突風に牛建は為すすべもなくあおられた。必死で臭い枝を握りしめていたが無駄だった。熱風があまりに強すぎる、と同時に、あまりに臭すぎるのだ。
が、その猛烈さ故に、牛建は熱風の強さも臭さも意識の上では把握ができなかった。この世では臭い物を嗅ぎ散らかしてきた牛建の鼻も、冥界にあっては世間知らずならぬ臭さ知らずであったのだった。男は閻魔親父の放った屁にあおられながら気を失った。
「ふう…、今日も元気だ屁が臭い。」
閻魔は独りごちてにやりと口髭をゆがませると次の在任を引き出してくるよう鬼たちに命じた。周囲に親父の屁の悪臭がもんわりと広がる。悪臭から背を向けて並んで歩きながら青鬼がぼやく。
「全く閻魔様は屁がくせえなあ。いつものことだけどよお。」
すると赤鬼が笑ってうなずきながら思い出したように口を開いた。
「そういえば、例の在任の話は聞いたか?地獄行きになった牛建だ。
あやつ、無事に閻魔様の尻の割れ目まで落ちていったそうだ。褌の後ろの隙間に吸い込まれていったのをほかの鬼が見たと言っていた。」
青鬼が首を振りながらあんぐりと呆れ返る。
「うへえ。なら、今の親父っ屁で野郎は死んだな。無事で済むわけがねえ。」
「地獄に落ちたほうがよかったのにな。」と赤鬼が重ねてうなずき、二人はがはははと笑い合った。
くだんの牛建。暗いトンネルの下で伸びている自分にようやく気がついた。
どれだけの時が過ぎてしまったか、まるで見当も付かないが、いつまでも伸びているわけにはいかない。
(オラは臭い親父が好きなんだす!三度の飯より大好きなんだす!臭い親父のケツでねえと!閻魔様のくせえケツの下で暮らすんだす!うぐっぷがあ!)
心に決めた使命に体を奮い立たせ不屈の精神で立ち上がりかけた男の鼻に、この世では一度たりとも嗅いだことのない悪臭が槍のごとく突き刺さり、たまらずどさりとひっくり返った。カエルのように足を開いて元の地面に伸びてしまう太っちょの髭面は襲われた臭さに苦悶していた。
「ぐ、ぐせえぇぇぇぇ…。」
ここが男の望んだ閻魔親父の尻の下である。未だ割れ目の角の付近であり、もっと深く暗い場所まで行くことができる。が、牛建がそれらのことに意識を向けるまでにはのちに相当の時が必要であった。
閻魔の尻の臭さに伸びて動けない男がなんとか立ち上がろうとするだけでもこの世で言うところの半日はかかる。この場所は尻であるから、糞の拭き残しはもちろん、外からの風の来ない湿地に生えたケツ毛の熱気、柔らかい座布団に押しつけた褌の裏に広がる馬糞のシミ、そして放った屁の猛烈な残り香がある。残り香が薄まるだけでも、この世で尻嗅ぎ狂いと呼ばれた牛建ならば再び立ち上がることができるだろう。
その前に屁をしない閻魔ではなかった。
ぶぼぼぼぼぶぶぶうぅぅっぶふわあぁぁぁぁっ!!
「ぷがごぶぐせえぇぇぇぇっ!」
ぶばばぶばばぶりぶりばりばりぶわあぁぁっふわあぁぁぁぁっ!!
「ごぼぷげほふがぐせえぇぇぇぇっ!」
ぐぶぼぼぼぼぐぶばばばばどぶぶぼぼぶふわっふわあぁぁぁぁっ!!
「んぐがごぎゃぷがぷげほげぐせえぇぇぇぇっ!」
立ち上がりかけては屁をされる。立ち上がれなくても屁をされる。残り香が消えることはないどころか、悪臭極まりない放屁の槍が次々と牛建の体に降り注ぐ。閻魔の尻はしたくなればすぐ屁をする尻であった。
「今朝はずいぶんと屁が出るわい。結構結構。ん、うるさい男が居る。」
褌の中に手を差し入れ、尻の割れ目の間から男をつまみ上げると閻魔大王は顔の前に太ったカエルをかざした。
「ん?貴様は誰だ、名を申せ。」
意識を取り戻しうっすらと目を開けた男。この世で言うところの数ヶ月ぶりにまともな空気を吸った鼻から、目から出るべき涙が流れ出した。
「牛建だす…。閻魔様あ…。」
「おお、牛建か。どうだ、ワシの尻の下で暮らす地獄は。醜い股をこんなにぐっしょり種まみれにしおって。」
大王の言うとおり、牛建の小指ほどのマラから絶えず噴き出した親父臭い子種は、牛建自身の臭い股をべとべとのぐしょぐしょに濡らしきっていた。体中にすっかり染みついた閻魔の屁の臭気にも劣らぬ、だらしのない栗の花の匂いを巨大な親父の鼻の前で放つ。
「たまらねえだす…閻魔の大王様あ…。オラもう、ここでねえと暮らしていけねえだすう…。」
「ふん。牛建よ。よかろう。」
閻魔大王は片手にしゃくを持ち直し、頭の何もかもが狂ってしまった男の眼前でがらがらと新たなる裁定を言い放った。
「貴様は地獄にすら落とす価値のない男よ!ワシの尻の下で暮らせ!ワシの尻を嗅ぎ続け、臭さに終生絶命するのだ!」
ばあん!
「へへえぇぇぇぇっ!ありがとうごぜえますうぅぅぅぅ!」
こうして牛建は地獄よりもひどい苦しみに満ちた、閻魔の尻の下に落ちた。これより男が嗅ぎ味わう“親父の尻臭地獄”はどこまでも続く。