電気工学科の学生たちがぞろぞろと正門を出ていく様子を窓越しに眺めながら、しんと静まり始めた東棟の気配に耳を澄ます。
立ち上がって「研究室」のドアを開けると、向かい側の壁にもたれて中年の髭面の男が立っているのが見えた。
「中へどうぞ。」
俺が声をかけると、背の高い男は上下ともベージュの作業服に包まれた固太りの体をいっそう縮こまらせ、麦わら帽子を取ってぺこりと会釈した。
廊下が蒸し暑いからか、夏場の炎天下での仕事でくたびれたせいか、荒い息を整えてはいるが作業服はぐっしょりと汗ばんで体に張り付き、日焼けした太い腕にも玉の汗が光っている。
「帽子は被ったままでいいですよ。お入りください。」
「すみません、こんな汚い格好をお見せして。仕事場から急いで来たもんですから。」
俺はにこやかに笑ってこのがっちり中年を室内に招き入れた。明らかに汗臭い。塩気をたっぷり含んだ男特有の汗と生臭いような加齢臭が大きな陰とともに通り過ぎる。俺はドアに音もなく鍵をかけた。
研究用の広い机には二つの椅子を準備してある。二人はごく自然に向かい合って座った。
「小寺一男さんですね?」
「はい。息子がいつもお世話になってます。」
今日の父兄参観の後に計画した進路に関する三者面談。そのトリを飾る小寺親子だ。
もっとも、息子の竜彦が面談を受ける気はさらさらなく、授業が終わるや早々にどこかへばっくれてしまったようだ。
反対に、父親の一男は仕事が忙しく、息子の授業の見学に間に合わなかった。なんとか抜け出して面談だけでも駆けつけたというわけだ。
「あの…竜彦の奴は?」
「ここに来たくないみたいですね。可能性のある場所は少し捜索してみましたが、校内にはもう居ません。」
それを聞いて小寺さんは筋肉が隆々と盛り上がった両肩をがっくりと落として深い溜息をついた。
「ほんとに申し訳ありません。あいつ、反抗期なんです。」
「ええ、間違いなくそうでしょうね。今日の授業でも後ろの席で足組んでふんぞり返ってましたよ。保護者に一番近い席なのに大した度胸です。お父さんにも見ていただきたかったですね。」
少々突き放すように告げてやると、小寺さんは麦わら帽子のつばが折れ曲がるほど上半身を折り曲げてひたすらに謝り始めた。
「申し訳ありません!申し訳ありません!」
ただただ平謝りのガテン親父。俺の倍は年上の泥臭い親父が、強面の顔にすっかり哀れっぽい目をくりくりさせて。そそるぜ。
「単刀直入にお伝えします。」
延々と終わりそうもない父親の謝罪をぴしゃりと打ち切り、俺はこの専門学校での小寺竜彦の様子をまとめた資料を広げて見せた。
「成績は2年生の中頃から急速に落ちています。3年からは学校に来なかったり授業に出席しない日が増えています。このままでは就職は難しいですね。」
小寺さんは紙を見つめたまま、なんとも情けない表情を浮かべ、悲しそうに下を向いた。だから…、そそらせるなよ。
と、いきなり顔を上げると、鬼のような必死の形相で俺を見据えて見た目にも性格的にも硬そうな分厚い口を開いた。
「勝呂先生。今からなんとかなりませんか。あいつの反抗期はいっときのものです。母親を早くに亡くしてるせいで、少し投げやりになってるんです。ずっと男親だけで育ててきたから分かります。俺に似てバカな奴なんです。
先生の力であいつを就職させてやってくれませんか。手に職を付けるありがたみが分かれば今より真剣になると思います。先生、なんとかお願いします。」
うほっ、来た来た。うまそうな獲物が自分から飛び込んできやがった。
「確かにいっときの反抗期かもしれませんが。息子さんがこうなったのはお父さんの責任ですよ。」
「はい…。それはもう全くそのとおりで…。申し訳ありません、申し訳ありません。」
おいおい小寺さん、あんた今すげえ年下相手に謝ってるんだぜ?その必死な姿がたまんねえなあ。食っちまいたくなってきたじゃねえか。
「ほんとうに申し訳ないと思っていらっしゃるのですね?」
「はい。ほんとうに申し訳ありません。」
ガタイのいい中年親父はもう一度頭を下げるために今度は麦わら帽子を取り、腹にぶくんぶくんと肉の段が出来るほど深く体を折って若干薄くなりかけている頭頂部を俺に見せた。
そこをべろりとなめたくなる精力強そうな親父の頭皮臭がこちらにもわあっと香ってくる。ううっ、俺に食べてくださいってか?俺は小寺の頭に舌を伸ばしたくなるのをこらえ、静かにジェスチャーして父親に帽子を被らせた。やはり、外で働く汗だくのガテン親父にはメットや麦わらが似合う。
「子どもの間違った行いは親が責任を取るものです。私は今からお父さんに罰を与えたいと思います。小寺さんが息子さんの責任を取るだけの罰を最後まできちんと受けたら、進路については内密に進めることにしましょう。」
ガテン親父の顔がぱっと輝いた。重い図体で椅子をぎしっときしませ、分かりやすいほど身を乗り出してくる。
「ほんとうですか!竜彦を就職させてやってください!このとおりです!」
それしか脳がないのか深々と頭を下げるばかりの小寺のふくよかな耳元に口を付け、俺はささやくようにゆっくりと念を押した。
「息子さんの素行はかなり悪いです。これからお父さんに与える罰は相当過酷なものになりますよ。いいですね?」
「はい。竜彦が就職できるなら、親として責任を取ります。どんなきつい罰でも俺は平気です。先生がもう充分だと思うまで、遠慮なく罰を与えてください。お願いします。」
両目にらんらんと喜びの光を宿らせ、巨体をすくめながらも俺を救世主のように見上げている。疑うことを知らない、一片の曇りもない顔だった。この表情も全て、息子のためなのだろう。
これが、男手一つで息子を育て上げてきた父親の一途な愛情ってやつか。どうやら、名前どおりの一本気な男のようだ。
その顔、究極の羞恥と地獄のケツ穴責めで真っ赤に染め上げてやるよ。ノンケ親父の穴いじりにたけた、この勝呂敬一様の手でな。
かわいい息子のためにせいぜい頑張るんだな。
「それでは早速始めましょうか。その汚れたズボン、脱いでください。それからパンツも脱いで、靴下のまま机の上に上がってください。お父さんの尻の穴を検査します。」