夜10時過ぎに鶴田は駅に戻ってきた。友人らしき男に伴われて。
きっと、駅まで送り届ける話になり、人のいい鶴田は断れなかったのだろう。
鶴田の顔は若干引きつっていたが、相変わらずカッコいい。そして、隣を歩く友人もまた俺好みのカッコいい紳士だった。
エンジのコートに暖かそうな私服。茶色の帽子を被っているが、帽子からのぞく髪はまさしくロマンスグレーだ。
「駅員さん、戻りました。」
窓のところまで来ると、鶴田が陰気な声で俺を呼ぶ。友人がついてくるとは想定外だったのだろうが、俺には関係ない。むしろ、想定外の獲物の登場に胸がわくわくするくらいだ。
「鶴田さん、お待ちしてましたよ。こちらの方は?」
俺が慇懃に対応したので鶴田は一安心したようだ。事務室も換気したので特に臭い匂いもしていない。
「ああ、軽部進一くんです。先ほどまで彼の家で夕食をご馳走になっていたんです。」
「軽部です。」
そう言って帽子を取る。やはり品のいいロマンスグレーだ。しかも、メガネの似合う甘いマスクの紳士だぜ。
鶴田くんみたいに燃えるような目をした情熱的な紳士も素敵だが、軽部くんみたいに色気を漂わせる落ち着いた目をした紳士も素敵だ。二人とも俺の食欲をそそるから困る。
「軽部くんは大学の同級生で、それ以来の長い付き合いなんです。いい男でしょう?」
鶴田がつぶらな瞳で軽部を見やると、軽部もまた鶴田をクールな目で見返す。
「君こそいい男じゃないか。大学では同じ女の子を好きになったこともあったんですが、全くもって鶴田くんの勝利でしたよ。」
「勝利だなんて大げさなものではなかったはずだよ。あっけない幕切れだったんですから。」
どうしてだ。どうしてカッコいい男はカッコいい男と友達になるんだ。お互いにくんづけで呼び合って、めちゃくちゃ仲いいじゃねえか!
と、ここで軽部が目の前のカウンターに置かれた靴箱ほどの大きさの入れ物に気がついた。中は見えない。蓋は被せてあるだけだ。
「これは何ですか?ちょっとミートソースのような匂いがしますね。」
鶴田がはっと気づいて制止するより早く、軽部は入れ物の蓋を取り上げた。とたんに強烈な下痢便臭が改札口に立ち上る。
「うっ!こ、これは…。」
「鶴田さんの排泄物です。軽部さんのお宅へ向かう途中で催してしまって。この駅員室でたっぷり大をしたんですよ。」
「近くにトイレがあるのに?」
「間に合わないほど急激な便意だったんです。見てください。下痢がすごく多いでしょう?」
軽部は蓋を脇に置くと、言われたとおりに入れ物に詰まった茶色の下痢の山を見つめた。細かな下痢粒は言うまでもない。浮いている肉ボールや野菜の食べカスも目に入っているはずだ。
「か、軽部くん…。」
鶴田が居たたまれない様子で軽部の視線の先を追っている。旧来の友人にひり出してさほど時間も経ってない下痢糞をまともに見られてしまい、気が動転しそうになっている。
そんなおどおどした鶴田の肩に軽部の柔らかそうな手が優しく乗せられた。二人とも同じくらい背が高くすらりとしている。
「今日は冷えたからね。鶴田くんは自分のことを我慢して僕の家に急いでくれたんだろ?ありがとう。そこまで気が回らなくて悪かった。許してくれ。」
「軽部くん、その、僕のほうこそ君に対して悪いことをしてしまったんだ。頼むから謝らないでくれないか。」
なんでだ。なんでカッコいい男たちは固い友情で結ばれてやがるんだ?くせえの一言も言わねえし。ったく、上品な紳士の考えてることは分からん。
「悪いことって、どうかしたのか?」
「鶴田さんは大をした後でお尻を拭くのを忘れてあなたの家へ急いで向かったんです。おそらく、鶴田さんがお座りになった椅子はこの下痢のような臭い匂いがしているでしょうね。
鶴田さんにここへ立ち寄っていただいたのは、パンツにウンチを付けて椅子を臭くしてこなかったかどうかチェックするためでして。駅員室はなんとかきれいにしましたが、やはりお尻もきれいにしておかないといけませんからね。」
軽部は合点がいったとばかりにうなずいた。
「それでさっき、君は駅まで送ろうと言った僕をあれほど押しとどめようとしたんだね。」
そして、エンジのフレームが上半分に取り付けられたスリムなメガネの位置を両手で直すと、俺も思わず飛び上がるほど驚くようなことを軽部くんは言った。
「駅員さん。鶴田くんのお尻とパンツの汚れのチェックを私にもさせてください。彼がこうなったのは私の責任です。鶴田くんにはお尻がきれいになった状態で安心して帰宅してほしいんです。駄目でしょうか?」
軽部は静かに下痢便の入れ物に蓋をした。懇願してくる目が真剣そのもので、これはこれのかわいさがある。
「軽部くん。君の気持ちはうれしいけど…。」
「いいでしょう。お二人とも駅員室にお入りください。」
今度は鶴田が、そんな、という落胆の色をたたえた目で見てくる。これはこれのかわいさがある。二人とも食っちまうか!
狭い事務室に男3人。とりあえず軽部くんを丸椅子に座らせる。
「暖かそうなお洋服ですね。でも、冷えたでしょう。お茶を出しますよ。」
「すみません。確かに今夜は冷えますね。」
俺はさっさとお茶に下剤を入れ、軽部くんの前に置いた。鶴田くんは俺の真意に気がついたものの、おどおどと俺と軽部くんを見ているだけだ。
「いただきます。」
「軽部くん…。」
「さあ、鶴田さんはズボンを脱いでください。まずはズボンが汚れていないかチェックします。」
飲んじゃ駄目だ。鶴田くんはそう言いたかったに違いなかった。その言葉を遮って、彼にズボンを脱ぐよう強要する。その間に軽部くんはきれいな手で静かに湯飲みを持ち上げ、するする、とほとんど音もなくお茶に口を付けた。